編集寄稿:青柳 誠司 博士(Seiji Aoyagi, Ph.D.)
チーフサイエンスオフィサー(CSO)、NiHTEK®
- スポーツおよび臨床栄養分野で35年以上の実績(日本)
- NiHPRO®ファミリー(Core/Bev/Puffs)およびKARBFiX®科学開発を統括
- APH™およびMPi™技術プログラムを指導
- 大学・病院との共同研究を推進
- Informed-Choice®/Informed-Protein®など第三者認証の推進者
- 「Protein For EveryBODY™」の科学的スポークスパーソン
植物性の食の人気は、健康への意識、倫理的価値観、環境負荷の低減といった理由から世界的に高まっています。豆類、穀物、種子、そしてそれらを原料とするプロテインパウダーや代替肉製品は、いまや何百万人もの人々の食生活の中心に位置しています。しかし近年、植物由来プロテインに含まれる重金属汚染という深刻な食品安全上の課題が明らかになってきました。これらの有害重金属は、低濃度であっても人体に悪影響を及ぼすことが知られています【1】。
ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、水銀(Hg)などが特に問題視されています。これらの金属は、工業活動や農業に伴う環境汚染により土壌や水中に蓄積し、植物の生育過程で吸収されます。こうした植物を原料としたプロテインアイソレートやパウダーでは、濃縮過程で金属の含有率が高まることがあり、健康志向の消費者にリスクをもたらす可能性があります。
重金属とは何か?
重金属とは、原子量および密度が高い元素群を指します。鉄や亜鉛のように人体に必須な微量金属もありますが、ヒ素・カドミウム・鉛・水銀などの非必須重金属は有害です。これらは生体分解されず、体外への排出も困難であるため、時間とともに生体内蓄積(バイオアキュムレーション)が起こります【2】。
摂取された重金属は細胞機能を妨げ、DNA損傷や臓器障害を引き起こすことがあります。毒性の程度は金属の種類・形態、曝露量・期間、年齢・健康状態によって異なりますが、微量でも慢性的な摂取が続くと深刻な健康被害をもたらすことが確認されています。
植物性プロテインで懸念される主要な重金属
- ヒ素(As)
ヒ素は地下水中に自然発生し、特に稲作のように水を多く用いる作物では吸収されやすい傾向があります【3】。無機ヒ素(より毒性の高い形態)は、根から吸収され可食部に蓄積します。
健康への影響:
無機ヒ素の長期曝露は、皮膚・膀胱・肺・腎臓がんのリスク上昇と関連しています。また、心血管疾患、免疫抑制、神経毒性も引き起こす可能性があります【4】。 - カドミウム(Cd)
カドミウムは工業副産物として発生し、リン酸肥料などを通じて土壌に入り込みます。大豆、ひまわりの種、オーツ麦、カカオなどの植物は、汚染土壌で育つとカドミウムを高濃度に吸収します【5】。
健康への影響:
主に腎臓と骨に蓄積し、腎機能障害や骨粗しょう症、発がんの原因となります。体内での半減期は10〜30年と非常に長く、慢性的に蓄積する点が特徴です【6】。 - 鉛(Pb)
環境中の鉛は削減されつつありますが、古い汚染土壌や都市部では依然として残存しています。汚染水で灌漑された農作物や、工業地帯・幹線道路付近で栽培された作物では鉛の吸収リスクが高まります【7】。
健康への影響:
強力な神経毒であり、特に子どもの脳発達に有害です。成人でも高血圧、不妊、認知機能の低下などを引き起こすことがあります【8】。 - 水銀(Hg)
水銀汚染は水産物に多く見られますが、大気中からの沈着により陸上植物への影響もあります。石炭燃焼や工業排出によって大気中に放出され、雨や土壌を通じて農作物に移行します【9】。
健康への影響:
有機水銀(メチル水銀)は特に毒性が高く、胎児や乳幼児の神経発達を阻害します。成人では運動能力、視覚、認知機能の低下を引き起こす可能性があります【10】。
なぜ植物性プロテイン製品が懸念されるのか
植物性プロテインパウダーやサプリメントは、「クリーンで健康的」という印象を持たれていますが、濃縮性の高さゆえに汚染物質も同時に濃縮されやすいという特性があります。製造工程で食物繊維・デンプン・水分などが除去される一方で、重金属は残留・濃縮しやすくなるため、1グラムあたりの含有量が増加することがあります【11】。
特に玄米プロテインは注目されています。2020年の調査では、複数の植物性プロテイン製品からヒ素・カドミウム・鉛が検出され、中でも玄米由来のものはエンドウ豆やヘンプより高濃度でした【12】。
また、プロテインバーやミールリプレイスメントなどの複合製品にも、カカオ(カドミウム源)やドライフルーツ、チョコレートコーティングなど、
追加の汚染要因が含まれることがあります。これらを日常的に摂取する人々は、知らず知らずのうちに安全摂取基準を超える可能性があります【13】。
累積リスクと特に注意すべき層
重金属汚染による健康リスクは、急性中毒ではなく慢性的な蓄積曝露として現れます。体内に長期間残留するため、微量でも毎日の摂取が積み重なることで健康リスクが高まります【14】。
特に影響を受けやすいのは以下の様な人々です:
- 子ども・乳幼児: 発達中の神経系が鉛や水銀に極めて敏感。低濃度でも行動・認知発達に永久的影響を与える可能性。
- 妊婦: ヒ素や水銀への曝露が胎児発育障害、低体重、流産リスクを増加【15】。
- アスリート・フィットネス愛好者: プロテイン摂取量が多く、累積リスクが高まりやすい。
- ヴィーガン・ベジタリアン: 植物性たんぱく質への依存度が高く、特定原料(米・大豆など)由来の金属摂取リスクが増す。
体外排出は尿や便で一部可能ですが、カドミウムや鉛は特に排出効率が低く、摂取頻度と継続期間が健康リスクを大きく左右します【16】。
今、求められる意識と行動
植物性の食の健康効果や環境面での利点は確立されています。しかし、重金属の存在は無視できない現実です。ヒ素、カドミウム、鉛、水銀は、微量でも毒性が強く、体内に長く残るため、低濃度の長期曝露こそが最大のリスクとなります。
そのため、
消費者には情報開示と教育
メーカーには原料管理・検査・表示の徹底
研究機関には継続的なモニタリングを求める
そうすることで、植物性栄養の持つ本来の可能性を損なうことなく、安全で持続可能なプロテインの未来を実現できるのです。
NiHPRO®は、ヒ素・カドミウム・鉛・水銀を含む重金属検査を実施しており、いずれも検出されていません。NiHTEK®は今後も、定期的な試験を通じて、日常的に安心して摂取できる安全性を保証してまいります。
References
- Tchounwou, P. B., et al. (2012). EXS, 101.
- Ali, H., et al. (2013). Environmental Chemistry Letters, 11.
- Meharg, A. A., & Zhao, F.-J. (2012). Arsenic & Rice. Springer.
- Smith, A. H., et al. (2000). Environmental Health Perspectives, 108(S1).
- Alloway, B. J. (2013). Heavy Metals in Soils. Springer.
- Nordberg, G. F. (2009).Toxicology and Applied Pharmacology, 238(3).
- (2007). Toxicological Profile for Lead.
- Lanphear, B. P., et al. (2005). New England Journal of Medicine, 348.
- Clarkson, T. W., & Magos, L. (2006). Critical Reviews in Toxicology, 36(8).
- Grandjean, P., & Landrigan, P. J. (2014). Lancet Neurology, 13(3).
- Clean Label Project. (2020). Protein Powder Contamination Study.
- Consumer Reports. (2018). Plant-Based Protein Powders and Heavy Metals.
- García-Sánchez, A., et al. (2018). Food Chemistry, 252.
- WHO/FAO. (2007). Exposure Assessment for Heavy Metals.
- Harvard T.H. Chan School of Public Health. (2022). Plant-Based Diet Guide.
- Academy of Nutrition and Dietetics. (2021). Position Paper on Vegetarian Diets.